← 戻る 神戸ポートピアホテル

まぶたに焼き付いた、青い街の残像

氷の風と、毛虫のような親友

「賭けていいよ、誰が一番先に寒さで泣き言を言うか」
誰かが言い出したその言葉に、私たちは口々に笑い声を上げた。12月の神戸の風は、氷の針のように鋭く、ルミナリエの光に目を奪われている間に指先の感覚がゆっくりと消えていく。
「は?私が泣くわけないじゃん。見てよ、この完璧な防寒対策!」
そう言って誇らしげにマフラーを巻いた友人は、顔の半分が布に埋まっていて、まるで巨大な毛虫のようだった。
「ありえないんだけど。呼吸できてる?その格好、後でグループチャットに晒してあげる」
「やめてよ!これが神戸の冬の正解なの!」
そんなくだらない言い合いをしながら、私たちは笑い転げた。

24階の静寂に溶ける、贅沢な空白

ホテルのシャトルバスに乗り込むと、低いエンジン音が冷え切った身体を静かに包み込んでくれた。そして辿り着いたのは、神戸ポートピアホテルのプレミアフロア(本館24F)。部屋に入った瞬間、外の刺すような冷気と、室内の柔らかな温度の境界線が肌をなで、張り詰めていた心までふわりと緩んでいく。靴を脱ぎ、裸足でカーペットに足を下ろすと、雲の上を歩くような厚みのある感触が足裏から伝わり、心地よい疲労感を溶かしていった。

窓の外には、黒いベルベットにダイヤモンドをぶちまけたような港の夜景が広がっている。冷たいガラスに額を押し付けると、そのひんやりとした感触が思考をクリアにし、街の灯りがプリズムのように屈折して視界の端に淡い輪郭を残していく。まぶたを閉じても、網膜にはルミナリエの金色の残像が張り付いていて、意識の底でゆっくりと明滅していた。

ここで起きた、最高にくだらない出来事を忘れない。一人が「エモい写真」を撮ろうとして、窓際でモデルのようなポーズを決めた瞬間だった。靴下で滑った彼は、そのまま摩擦を失ったペンギンのように滑り、盛大な音を立ててベッドの端にダイブした。静まり返っていた部屋に、忽然ではない、緩やかな笑いの波が押し寄せる。私たちは、その滑稽な光景を誰よりも激しく笑い飛ばした。完璧な旅なんて、きっと退屈で仕方ない。不格好に滑って、一緒に笑い転げる。そんな時間こそが、この旅にもたらされた本当の贅沢だったのかもしれない。

バスルームのタイルの温度は、足裏にちょうどよく冷たく、そこから立ち上がる白い湯気の匂いが、一日の終わりを告げていた。清潔な洗剤の香りが漂うタオルに顔を埋めると、深い安堵感が全身を包み込む。24階という高さが、私たちを日常の責任や役割から切り離し、ただの「友人」という純粋な関係に戻してくれた気がした。ここは、誰かが誰かをケアしなくていい、ただ一緒にいていいだけの、心地よい空白の空間だった。

深夜2時の、低い周波数

部屋の明かりを半分まで落とし、琥珀色の間接照明だけが壁をぼんやりと照らしている。もう一人が深い眠りに落ち、残った二人だけで、小さな声で話し始めた。昼間の喧騒が嘘のように、言葉の密度が変わる。
「ねえ、私たち、10年後もこんな風にくだらないことで言い合ってるかな」
「どうだろうね。まあ、誰かが忘れ物をし続ける限り、口うるさい役は必要だろうし」
「ふふ、それっぽい。なんか、今のこの静けさが心地いいっていうか」
「うん。たまにはこういう、何もしない時間があってもいいよね」
ふいに漏らした将来への不安に、相手は正解を出そうとはしなかった。ただ、「その不安は、次にどこへ行くべきかを教えてくれるコンパスみたいなものかもね」と、静かに言い直した。正解を出すことよりも、今のこの不安定な感情を、そのまま隣に置いておくこと。それが、私たちにとっての誠実さだった。

窓の外では、港の灯りがゆっくりと、深い眠りに誘うように瞬きを繰り返していた。

  • 屋上テラスのバーで、夜景を肴に一杯。誰が一番「エモい」写真を撮れるか競い合うのがおすすめ。
  • ホテル無料シャトルバスを活用して、街歩きの疲れをリセット。車窓から見る神戸の街並みも心地よい。