← 戻る ホテルモントレ神戸

重いカーテンが、一年の終わりを閉じた音

重いカーテンが、一年の終わりを閉じた音

「誰がマフラー忘れたか賭けようぜ」

「はい、出た。やっぱりお前じゃん。12月の神戸をなめてたな」
「うるさいな、ホテルに着けば暖かいだろ」
「その思考回路が寒いんだよ。見てよこの格好、完全に迷子のペンギンじゃん」
「笑いすぎ。というか、お前のそのコート、ぶかぶかすぎて中にあと一人入れそうなんだけど」
「いいんだよ、これが今年のトレンド。あ、見て、あそこがホテルモントリーベ神戸だ。やっと辿り着いた」
「三宮駅からたった6分でここまで息切れしてる奴がいるなんて、このグループの体力限界が早すぎる」


舞台衣装のような静寂を脱ぎ捨てて

ロビーに足を踏み入れた瞬間、外の鋭い冷気が、厚いガラスの向こう側に切り離されたのがわかった。そこにあるのは、どこか懐かしい、けれどここではないどこかへ連れて行かれるような、重厚なヨーロッパの空気。金色の縁取りがなされた壁や、深みのある色の木材。そういうものが、私たちの騒がしさを静かに吸収していく。

部屋に入ると、まず足裏に伝わってきたのは、音を完全に飲み込むカーペットの厚みだった。三宮の街を歩いて、少しだけ冷え切った指先が、暖房の温度にゆっくりと溶けていく。ツインルームのベッドに、誰が先か競うように飛び込んだ。リネンのひんやりとした感触と、身体を包み込む適度な重み。この空間は、私たちにとって某種の「舞台セット」のようなものかもしれない。普段の生活では絶対に選ばないような、クラシックで装飾的な空間に身を置くことで、私たちは日常の役割を脱ぎ捨てて、ただの「旅人」という役を演じられる気がする。

元町中華街まで歩いて5分という立地は、食いしん坊な私たちにとって最高に都合がよかった。冷たい風に吹かれながら食べた、湯気の立つ点心の味がまだ口に残っている。それから土屋鞄店までふらふらと歩き、冬の光に照らされた街並みを眺めた。けれど、結局一番心地よかったのは、この重いカーテンを閉め切って、外の世界を完全に遮断した部屋の中で、くだらないことで言い争っている時間だったのかもしれない。


湯上がりの脱力と、正解のない話

「……で、結局今年の目標、ひとつも達成してないんだよね」
「いいじゃん。俺なんて、目標を立てたこと自体を忘れてたし」
「最低だな。でも、まあいいか。ここでこうやって、湯上がりでぼーっとしてる時間が一番正解っぽい気がする」
「大浴場のサウナ、あれはやばかったな。意識がどっか飛んでたわ」
「お前の意識は普段から飛んでるけどね」
「あはは、それな。というか、来年もまたこうやって、誰かが忘れ物して、誰かがそれにツッコむ旅ができればいいよね」
「まあ、お前がマフラーを忘れないなら考えてもいい」
「うるさいよ」


窓の外で、神戸の夜が静かに、けれど鮮やかに色づいている。
  • 三宮駅からの徒歩6分の道のりを、あえてゆっくり歩いて冬の街の匂いを確認してほしい。
  • 大浴場から上がった後、そのまま部屋のベッドにダイブして、何も考えない時間を15分だけ作ること。