← 戻る 大江戸温泉物語Premium 鬼怒川観光ホテル

ぬるくなったお茶と、誰のせいか分からない言い合い

誰が最初に部屋の鍵をなくすかという、くだらない賭けをしていた。大江戸温泉物語Premium 鬼怒川観光ホテルのロビーに敷かれた厚いカーペットが、私たちの騒がしい笑い声を吸い込み、静寂へと還元していく。それはまるで、今にも弾けそうな水滴の表面張力のような、危うい均衡だった。結局、全員が鍵の置き場所を忘れ、呆然とフロントへ戻る羽目になったのは、今思い出しても可笑しくてたまらない。


バイキングの列は、抗えない潮流のように私たちを飲み込んでいった。漆黒のカレーが放つ深く、塩気のある香りが鼻腔をくすぐり、刺身を三皿も平らげた記憶を鮮やかに塗り替えていく。眼鏡が白い湯気で濁り、視界がぼやけた瞬間、世界が温かい霧に包まれた心地がした。誰が一番高く皿を積めるかという不毛な競争。食欲よりもプライドが優先されるその時間が、一番「私たち」らしい。
「温泉はこっちだって言ったでしょ!」廊下に鋭い怒鳴り声が響く。着慣れない浴衣の袖が擦れる、乾いた衣擦れの音。地図なんて持っていないのに、正解のない方向について言い争う。その不毛さが、心地よい波紋のように心に広がっていた。結局、迷い端に辿り着いた景色が一番美しかったなんて、誰が予想できただろうか。
卓球コーナー。ボールが卓球台を叩く「パチン、パチン」という乾いた音だけが、世界のすべてだった。ボールの軌道は不規則な乱気流のように予測不能で、私たちは休暇中とは思えないほどの真剣さで勝ち負けにこだわった。誰かがボールを完全に空振りし、近くの花瓶を危うく倒しそうになったとき、一瞬の静寂のあとに全員で爆笑した。あの瞬間だけは、大人のふりをするのを完全にやめていた。
温泉の湯はとろみがあり、肩から緊張をゆっくりと押し出してくれる感覚があった。ひとつの気泡がゆっくりと水面に昇り、弾けるのをぼんやりと眺めていた。自分と水の境界線が曖昧になり、すべてが溶け出していく。思考を止めることこそが、本当の意味での休息なのだろう。誰とも喋らず、ただお湯の温度に身を任せる時間は、贅沢というよりは生存に必要な儀式だった。
和洋室の畳からは、古い記憶を呼び起こすような、かすかな草の香りが漂っていた。裸足の踵が冷たい床に触れる、ひんやりとした感覚。トイレまでの距離が、実際よりもずっと長く感じられた。その小さな空白が、部屋を不思議と広く見せていた気がする。ベッドに倒れ込んだとき、シーツの冷たさが肌に張り付く感触に、ようやく旅の途中にいることを実感した。
夜遅くに、大人が入り込むにはあまりに狭いキッズパークに迷い込んだ。原色のプラスチック遊具に無理やり体をねじ込む作業は、滑稽で、けれど至福だった。大人が子どもになるのではなく、ただ不器用なままそこに居ること。格好いい自分を演じるのをやめたときだけ見えてくる、正直な時間。結局、誰が一番狭い隙間にハマったかで盛り上がるなんて、誇らしくはないけれど最高だった。
九月の夜風が、少しずつ冷たさを帯びていた。月明かりに照らされたススキが、銀色の波のように揺れている。言葉を交わすのはやめて、ただ温度が下がっていくのを肌で感じていた。旅の記憶がゆっくりと濾過され、澄んだ澱だけが心に残る。心地よい疲れが、体の中をゆっくりと流れていく感覚があった。大江戸温泉物語Premium 鬼怒川観光ホテルで過ごした時間は、静かに心に沈殿していく。

水面に映る月だけが、私たちの正解だった。

  • バイキングの黒カレーは、不思議な中毒性があるから絶対食べてみて。
  • 卓球コーナーで、夕食後のデザートを賭けて真剣勝負することをお勧めする。