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プラスチックカップの中で、氷が小さく鳴った夜

プラスチックカップの中で、氷が小さく鳴った夜

真夜中の共犯者、誰が食べたいと言ったっけ

定山渓の夜は、札幌の中心部よりもずっと深く、ひんやりとした空気が肌にまとわりつく。浴衣の裾が歩くたびに足首に触れ、湿った畳の感触が足裏から伝わってくる。私たちは、街中で見た盆踊りの熱狂と、心臓の鼓動がまだ身体のどこかに残ったまま、鹿の湯のモダン和洋室へと戻ってきた。誰が言い出したのかはもう覚えていないけれど、コンビニで買い込んだ大量の夜食が、ビニール袋の中で不格好に重なり合っている。袋の持ち手が指に食い込む感覚が、なんだかこの旅の正解のような気がして、私たちは密かに笑い合った。リニューアルされたばかりの廊下は、新材の木の香りと昭和レトロな趣が不思議なバランスで共存しており、歩くたびに心地よい木の軋みが耳に届く。部屋のドアを開けた瞬間、外の喧騒がふっと消え、代わりに深い静寂が私たちを迎え入れた。それは、音がなくなったのではなく、窓の外を流れる渓流のせせらぎという、巨大な一つの音がすべてを包み込んでいたからだ。

贅沢な咀嚼と、とりとめない告白

「ねえ、さっきの踊り、正直に言っていい? あなた、完全にリズムを迷子にしてたよね」

誰かがいたずらっぽく笑い出し、部屋の中にくすくすという笑い声が波紋のように広がった。私たちは畳の上に円を描くように座り込み、コンビニの袋から次々と夜食を解き放つ。結露して冷たくなったお茶、少しだけ形が崩れたおにぎり、そして北海道ならではの濃厚なミルクプリン。プラスチックの容器が開く「パキッ」という小さな音が、静かな部屋に心地よく響き渡る。

「迷子じゃないよ。あれは独自の解釈による即興的なアレンジ。というか、あの曲のテンポが速すぎただけじゃない?」

「言い訳まで完璧だなあ。まあいいけど。それより見てよ、このプリン。スプーンを入れた瞬間の弾力が、なんだか今の私たちの心地よい疲労感に似てる気がしない?」

「例えがひどすぎるでしょ」

そんなくだらない会話をしながら、私たちは互いの顔を見て笑い合った。誰かがわざとプリンを多くすくって口に運び、もう一人がそれを羨ましそうに眺めている。そんな、なんてことのない時間が、どんな豪華なディナーよりも贅沢に感じられた。鹿の湯の部屋は、適度な広さがある。けれど、夜食を囲んで肩が触れ合う距離にいると、その空間がちょうどいいサイズに凝縮されたように感じられた。窓の外からは、定山渓の渓流が絶えず低い唸りを上げていて、その音が会話の隙間を優しく埋めてくれる。無理に言葉を探す必要はなく、ただそこに一緒にいるという事実だけが、確かな温度を持ってそこにあった。

満たされたあとに訪れる、深い空白

最後の一口を飲み干し、プラスチックカップの中で残った氷がカランと乾いた音を立てた。会話は自然と途切れ、代わりに濃密な沈黙が部屋を満たしていく。誰からともなく布団を広げ始め、畳の上にゆっくりと横たわった。天井を見上げると、間接照明の柔らかな光が、木の質感に深い陰影を作っている。布団の適度な重みが身体を包み込み、今日一日中歩き回った足の疲れが、温泉の湯に溶け出すようにゆっくりと消えていく感覚があった。隣で誰かが小さくあくびをし、もう一人が寝返りを打つ。そのかすかな衣擦れの音が、今の私たちにとって最も心地よい子守唄だった。外の川の音は、時折、遠くで誰かが笑ったような錯覚を起こさせるほどに穏やかだ。完璧なプランを立てて、すべてを消化する旅もいいけれど、こうして予定外の夜食を食べて、くだらないことで笑い合う時間こそが、この旅の本当の輪郭を形作っていたのかもしれない。明日になれば、また誰かが遅刻し、誰かが道に迷うのだろう。けれど、それがどうでもいいと思えるほど、今のこの静寂は心地よい。私たちは、それぞれの呼吸を合わせるようにして、ゆっくりと深い眠りへと落ちていった。

夜の底で、川のせせらぎだけがずっと、私たちに寄り添っていた。

  • コンビニで手に入る、北海道限定の濃厚なミルクプリンやソフトクリーム。
  • 地元の地酒を少量買い込み、畳の上でゆっくりと味わう静かな時間。