← 戻る 伊東温泉 ホテルラヴィエ川良

まぶたを閉じても、そこに残っていた光

まぶたを閉じても、そこに残っていた光

真夜中の空腹に、誰が先に降伏するか

指先の感覚が消え入るほどに冷たい風が、伊東の街を鋭く吹き抜けていた。12月の夜気は、まるで研ぎ澄まされた刃物のように肌を刺し、私たちは誰が一番先に「寒い」と口にするかという、大人のすることとは思えないくだらない賭けに興じていた。街を彩るイルミネーションは、夜空に砕いたガラスを撒いたかのように鋭く、それでいて儚い光を放っている。その光の破片に誘われるままに歩き回り、私たちは吸い寄せられるようにコンビニへと飛び込んだ。賞味期限などどうでもいいと思えるほどジャンクな菓子と、地元の銘菓を適当に詰め込み、急ぎ足で宿へと戻る。伊東温泉 ホテルラヴィエ川良のロビーに足を踏み入れた瞬間、外の刺すような冷気が嘘のように消え、代わりにしっとりと湿り気を帯びた温かい空気が、重いコート越しに私たちを優しく包み込んだ。案内された和洋室へ向かう廊下で、足首まで飲み込むほど厚いカーペットの感触に気づいたとき、ようやく私たちは、日常から切り離された特別な場所に辿り着いたのだと実感した。

ポテトチップスの破裂音と、心地よい言い訳

「ねえ、ぶっちゃけ今の格好、誰が考えたの? 寒さ対策っていうか、ただの梱包材みたいになってたよ」

ベッドの上にどさっと座り込み、コンビニの袋をガサガサと派手に鳴らしながら、誰かが吹き出した。豪華な海鮮バイキングで十分に腹を満たしたはずなのに、なぜか深夜の部屋で食べるポテトチップスの塩気が、旅の記憶に一番深く刻まれる。それが旅行というものの正解な気がしてならない。

「うるさいな。これは機能美っていう言葉で表現すべきなの。結局、一番に『寒い』って泣きついたのは誰だっけ」

「それは風の方向が悪かっただけ! 運が悪かったの。ねえ、この地元の飴、意外と美味しい。誰かもう一個食べる?」

「いいよ、私がもらう」

そんな、中身のない会話が、暖色の間接照明に照らされた部屋の中にゆっくりと充満していく。誰かがもぐもぐと口を動かし、誰かがシーツの上で心地よさそうに転がり、誰かが窓の外に広がる深い闇を眺めている。私たちは、お互いの欠点や、普段なら気にして避けるような小さな違和感を、この密室の中では心地よいノイズとして受け入れていた。

「本当はもっと計画的に回るつもりだったけど、結果的に全部めちゃくちゃだったね」

誰かがふと呟いた言葉に、誰も後悔の色は見せなかった。むしろ、予定調和から外れた瞬間にだけ見つかる、名前のない景色に私たちは密かに満足していた。旅の目的とは、目的地に辿り着くことではなく、一緒に迷子になる時間を共有することだったのかもしれない。そんな考えが頭をよぎったけれど、口に出すと急に真面目すぎる気がして、私はわざとらしくポテトチップスの袋を強く握りしめた。

湯気の向こう側に、静寂を溶かして

食い散らかした袋が片付けられ、部屋に訪れたのは、耳の奥で心地よく鳴るような深い静寂だった。伊東温泉 ホテルラヴィエ川良の客室にある温泉に、一人ずつ順番に身を沈める。お湯の温度は、ちょうど皮膚の境界線が曖昧になるくらいの心地よさで、凝り固まった肩の力が、ゆっくりと水の中に溶け出していくのがわかった。露天風呂のような開放感に包まれながら、立ち上る湯気で視界が白く濁り、鏡に映る自分の輪郭がぼやけていく。それは、社会の中で演じている「誰か」という役割が、熱いお湯に洗われて消えていく感覚に似ていた。浴上がりに、冷たい空気の中で肌がじわじわと冷えていく快感。もこもこのガウンに身を包み、ベッドに潜り込むと、さっきまでの騒がしさが遠い記憶のように感じられた。隣で誰かが規則正しい寝息を立て始めている。私たちは、明日になればまた、それぞれの日常という名の周波数に戻っていく。けれど、まぶたを閉じると、まだ街のイルミネーションの残像が、プリズムのように淡く揺れている。その光は、もう誰とも競い合う必要のない、ただそこにあるだけの静かな光だった。足りない部分があるからこそ、誰かがそこに入り込む余地がある。そんな、不完全な関係性の心地よさを、私たちはこの夜にだけは、素直に受け入れていた。

シーツの冷たさと、隣から伝わる体温だけが、今の正解だと思う。

  • 伊東駅近くのコンビニで買える、地元産の干物おつまみ。深夜の温泉上がりに最高。
  • 地元の地酒を一本買い込み、誰が一番先に寝落ちするか賭けてみるのもいい。