静音の電動シャッターが、滑らかに、そして重々しく降りる音がした。外の世界の喧騒が、厚いベルベットのカーテンを引くように遮断される。その瞬間、肌に触れる空気の密度がふわりと変わるのがわかった。ハイデルベルクモーテルの部屋に足を踏み入れたとき、僕が最初に捉えたのは、ひんやりとしたタイルの感触と、どこか懐かしい、丁寧に洗い上げられたリネンの清潔な香りだった。三月の彰化は春の気配に満ちているが、この空間だけは時間が凪いでいる。誰にも邪魔されない、完全なプライバシーという名の静寂に、僕はただ深く身を委ねていた。
「ちょっと待って、この外観、盛りすぎじゃない?」と、みんなで腹を抱えて笑った。台湾のど真ん中に突如として現れたヨーロッパのお城。僕たちは、誰が一番先にこの豪華さに圧倒されて、おどけたポーズで自撮りするかで賭けをしていた。結局、全員が同じことをしていたのが最高にくだらない。部屋に入った瞬間、「え、広すぎ!」と歓声を上げ、誰が一番いいベッドを陣取るかで子供のように小競り合いを始めた。テレビ付きの大きなマッサージバスタブを見つけたときは、もう大興奮。「ここで映画を観ながらお風呂に入るのが正解でしょ」と結論づけた。この過剰なまでの演出こそが、僕たちの旅に必要だった最高のスパイスだった。
贅沢な孤独の味、賑やかなミスマッチの味
朝、部屋に届いたマクドナルドのセット。茶色の紙袋から漂う、あの特有の油と塩の香りが鼻腔をくすぐる。温かいエッグマフィンを一口かじると、卵の柔らかな弾力とチーズの濃厚なコクが、まだ半分眠っている意識をゆっくりと呼び戻していく。コーヒーの白い湯気が、窓から差し込む三月の柔らかな光に溶けていく様子を、ぼんやりと眺めていた。派手さはないけれど、この静謐な空間で味わうファストフードが、どうしてこんなに贅沢に感じるのだろう。味覚よりも、その時の心地よい「温度」を、僕は記憶に刻んでいた。
「え、朝食マクドナルドなの? 正気?」と最初は口々にツッコミを入れた。でも、一口食べた瞬間、全員が黙り込んだ。旅先の朝に食べるマックという、禁断の快楽。ハッシュポテトのカリカリとした食感と、強めの塩気が疲れた体に染み渡る。僕たちは、誰が一番多くポテトを盗み食いできるかという、大人のすることとは思えない幼稚な勝負に没頭した。結局、誰が勝ったかも忘れたけれど、あの時の「ありえない組み合わせ」が、この旅で一番笑った瞬間だったと思う。お城のような空間でマックを頬張るというミスマッチ感。それこそが最高に贅沢で、僕たちらしい時間だった。
僕たちが唯一同意したこと
二二八の連休、媽祖遶境の熱気に揉まれ、舞い散る桐の花に沿って歩き回り、足の裏は心地よい熱を帯びていた。そんな僕たちが、ハイデルベルクモーテルのベッドに同時に倒れ込んだ瞬間、重なり合うように深い溜息をついた。身体を優しく包み込むマットレスの絶妙な沈み込み。そこだけは、誰一人として文句を言わなかった。外では祭りの太鼓が遠くで響いていたが、この白いシーツの中だけは、世界で一番安全な避難所だった。言葉はなくとも、「ここが正解だ」という確信だけを共有していた。
朝の光が、シーツの皺に沿ってゆっくりと形を変えていくのを眺めていた。
- 部屋にあるマッサージバスタブで、あえて何も考えずにぼーっとする時間を確保してほしい。
- ホテルの近くにある全聯(PX Mart)で、地元の珍しいお菓子を買い込んで夜更かしするのがおすすめ。