← 戻る 大江戸温泉物語Premium 白浜御苑

水音に溶けていった、私たちの距離

喧騒を脱ぎ捨て、互いの呼吸を調律する場所

自動ドアが開いた瞬間、外の湿った風と共に、白檀を思わせる静謐な香りが鼻をくすぐった。ロビーに足を踏み入れると、そこには街中の喧騒とは切り離された、低く落ち着いた音の層が心地よく広がっている。大江戸温泉物語Premium 白浜御苑の入り口で、私たちはまだ、それぞれの場所でつけていた急ぎ足のテンポを、完全には脱ぎ捨てられずにいたのかもしれない。チェックインを待つ間、隣に立つ君の指先が、小さく、不規則に動いているのが見えた。何かを言いかけて飲み込んだときの、あの小さな沈黙。それは心地よくもあり、同時に少しだけ緊張させる、調律前の楽器のような時間だった。磨き上げられた床に落ちる足音だけが、ぽつり、ぽつりと空間に吸い込まれていく。私たちはまだ、お互いの波長を合わせるための、静かな導入部にいた。

静寂へと誘う、速度を落とすための回廊

客室へと続く廊下に入ると、空気がふっと温度を下げ、外界の熱気が遠のいていく。厚手の絨毯が足音を丁寧に飲み込んでいき、世界から音が消えていく感覚がある。ここは、外の世界の速度から、二人だけの速度へと切り替わるための緩衝地帯なのだろう。壁に沿って歩くとき、肩が触れそうになっては、わずかに距離を置く。その数センチの隙間に、言葉にならない感情が詰まっている気がした。誰にも邪魔されない静寂が、心地よい圧迫感を持って私たちを包み込む。聞こえてくるのは、遠くで誰かが歩くかすかな振動と、自分の心臓が刻む少しだけ速いリズムだけ。ゆっくりと歩幅を合わせていくうちに、さっきまで感じていた緊張が、水のように足元から解けて広がっていくのがわかった。

畳の香りと柔らかな光に、二人だけの周波数を合わせる

部屋の扉を開けると、そこにはい草の乾いた香りと、窓から差し込む柔らかな五月の光が待っていた。裸足で踏んだ畳の質感は、予想していたよりも少しだけひんやりとしていて、それが心地よく肌に馴染む。私たちは、あえて何も話さずに、ただそこにいた。お茶を淹れるとき、急須から湯呑みへ注がれるお湯の音が、部屋の静寂を心地よく塗り替えていく。その音の残響が消えるまで、私たちはじっとの間を共有した。

ふと思い立って、二人で浴衣に着替えようとしたときのことだ。帯の結び方がどうしても分からず、もたついている私を見て、君が「貸して」と手を伸ばした。けれど、君の方もうまく結べなくて、結局二人して帯をぐちゃぐちゃにさせてしまった。そのとき、ふっと小さな笑い声が漏れた。完璧に整えることなんて、どうでもいい。ただ、この不器用な時間が、何よりも贅沢に感じられた。露天風呂で心身を解きほぐす前の、この静かな高揚感。布団の上に深く体を沈めると、ここには私たち以外の誰もいないという事実が、心地よい重みとなって胸に満ちてくる。誰かの期待に応えるための自分ではなく、ただここに在るだけの自分。その心地よさに、深く、深く潜っていく。

窓枠という額縁から、緩やかに回る世界を眺めて

窓を開けると、黒部の五月が鮮やかな緑の波となって押し寄せてきた。新緑の香りが、少しだけ甘く、肺の奥まで満たしていく。遠くに揺れる藤の花の紫が、淡い水彩画のように景色に溶け込んでいた。私たちは窓辺に並んで立ち、ただ外を眺めていた。バラの香りが風に乗って、かすかに届く。

「きれいだね」

君がそう言ったとき、その声はとても小さかったけれど、私の耳にはどんな音楽よりもはっきりと届いた。私たちは、答えを出すための旅に来たわけではない。ただ、隣にいる人の呼吸が、自分と同じリズムで刻まれていることを確認したかっただけなのかもしれない。外の世界では、時間は残酷なほど速く流れているけれど、この窓枠の中だけは、時間がゆっくりと円を描いて回っている気がした。何も解決しなくていい。ただ、この景色を一緒に見ているという事実だけで、十分な気がする。私たちは、ただ静かに、互いの存在という心地よい周波数に身を任せていた。

指先に残った、お湯の温もりだけを連れて帰ろう。

  • 夕食バイキングでは、富山の地元の味が揃うので、二人で「一番好きな味」を教え合ってみてください。
  • 露天風呂でのひととき、あえて言葉を交わさず、ただお湯の音に耳を澄ませる時間を大切に。