裸足で踏みしめた白いタイルが、ひんやりと指先に吸い付く。廊下を全力で駆け抜ける次男の、弾むような足音が静寂を心地よく乱していた。不意に彼が足を止め、大きく口を開けて上を向く。「ねえ、なんでこのお家、三角なの?」と。ブランシェット南紀白浜 / BLANCHETTE NANKI-SHIRAHAMA の象徴である白い四角錐の天井は、幼い彼にはきっと、巨大なテントか、あるいは誰にも教えたくない秘密基地に見えたのだろう。正解を教えるよりも、一緒に首をかしげて「不思議だね」と笑い合う方が、この旅の正解に近づける気がした。
41度の濃密な湯が、冬の間に凝り固まった肩の強張りを、ゆっくりと、けれど確実に解きほぐしていく。プライベートスパの湯船に深く身を沈めると、世界から切り離され、自分の静かな呼吸音だけが耳に届く。リビングから漏れ聞こえる子どもたちの賑やかな笑い声が、遠い波音のように心地よいBGMとなって意識の端をかすめていく。皮膚の境界線が湯に溶け出し、曖昧になる感覚。ただここに在るだけでいいという、静かな肯定感に包まれていた。
窓を大きく開け放つと、4月の湿り気を帯びた春風が、潮の香りを連れて部屋へと流れ込んできた。独立したヴィラという贅沢な空間だからこそ、隣人を気にせず、心の底から声を上げられる。上の子が弾けるように笑い、その快活な声が白い壁に反響して、部屋全体の空気が心地よく振動している。その音の波に包まれていると、家族という小さなチームで、世界を旅しているような不思議な連帯感が湧いてくる。静寂よりも、この賑やかな不協和音こそが、今の私たちに最も必要な栄養だったのかもしれない。
ライブダイニングに漂う、肉が焼ける香ばしい匂いが鼻腔を心地よくくすぐる。目の前で丁寧に調理される熊野牛の、宝石のように滴る脂の輝き。次男がソースを頬につけたまま、「おいしい!」と天真爛漫に叫び、その声が隣のテーブルまで届いていた。少しだけ気恥ずかしかったけれど、そんなことはどうでもいいと思えるほど、口の中でとろける肉の温度と濃厚な旨味が、心まで満たしてくれた。締めくくりのパッションフルーツの鮮やかな酸味が、後味を軽やかに、そして贅沢に彩っていた。
午後の柔らかな光が、高い天井から鋭い角度で差し込んでいた。真っ白な壁に落ちた影が、時計の針に導かれるように、ゆっくりと、けれど確実にその形を変えていく。ふと、時間を管理することをやめて、ただその光の移ろいを眺めていた。4月の午後は、どこか気だるい倦怠感と、新しい季節が始まる予感に満ちている。子どもたちが床に寝転んで漫画に没頭している、そんなありふれた日常の断片が、この場所ではなぜか、この上なく贅沢な宝物のように思えた。
テラスのウッドデッキに、忘れ去られた小さなプラスチックの恐竜がひとつ。誰が置いたのかはわからないけれど、その不格好な造形が、完璧に整えられた空間に人間らしい温かな生活感を添えていた。指先で触れた木の表面は、春の陽に温められていて、どこか懐かしい記憶を呼び起こす温度をしていた。完璧に調律されたリゾートよりも、こういう小さな「乱れ」や「忘れ物」がある方が、心から肩の力を抜いてリラックスできる。
子どもたちが深い眠りの海に落ちた後、部屋には濃密で心地よい静寂が訪れた。隣で眠るパートナーの、規則正しく穏やかな呼吸音。私たちはあえて言葉を交わさず、ただ今日という一日の出来事を、映画のフィルムを巻き戻すように頭の中で反芻していた。騒がしくて、少し疲れて、けれど心の中にあった小さな空洞が、家族の体温でゆっくりと埋まった感覚。明日にはまた日常という戦場に戻るけれど、この静かな充足感だけは、記憶の深い場所に大切に留めておきたい。
4月の風に吹かれながら、心地よい疲労感に包まれて眠る夜。
- 白良浜の真っ白な砂浜を、あえて目的地を決めずに親子でゆっくりと散歩し、波の音に耳を傾けてみてください。
- ダイニングでは、お子様と一緒に「今日一番のお気に入り食材」を探すゲームをしながら、食の冒険を楽しんでください。