← 戻る 仙台ヒルズホテル

夜の暗闇に、不意に現れた大きな手

足の裏に触れるカーペットの厚みが、予想以上に心地よかった。仙台ヒルズホテル / SENDAI Hills Hotelのツインルームという空間は、大人の感覚では十分な広さかもしれないけれど、5歳と7歳の子供たちにとっては、そこはもう一つの競技場だった。右から左へ、全力で走り抜ける小さな足音。その音が厚い生地に吸い込まれては、また弾ける。追いかける私の呼吸が少しだけ荒くなるけれど、その乱雑なリズムこそが、旅が始まった合図のように感じられた。「捕まえた!」という歓声が、清潔なリネンの香りに混ざって部屋いっぱいに広がっていく。



深い溜息と一緒に、身体をベッドに沈める。シーツのパリッとした冷たさが肌に触れた瞬間、ようやく「あぁ、ここに居てもいいんだ」という安堵感がやってきた。子供たちが夢の中で何かを追いかけているのか、時折小さく身悶えする音が聞こえる。その不規則な呼吸音を心地よいBGMに、一人で飲む白湯の温度が、強張っていた心までゆっくりと解きほぐしていく。静寂というものは、何もないことではなく、大切なものが隣に在ることを確認するための、心地よい重みのことなのかもしれない。


屋上テラスに出ると、10月の仙台の空気が、薄い膜のように肌に張り付いた。少しだけ冷たい。でも、その冷たさが、肺の奥まで新鮮な空気を届けてくれる。遠くで聞こえる街の喧騒が、まるで遠い国の物語のように淡く響いている。子供たちが「あそこまで飛んでいけるかな」と、柵に身を乗り出して空を指差していた。その指先の震えさえも、この場所の静かな時間の一部に溶け込んでいく気がした。風が運んでくる秋の気配が、家族の距離をそっと近づけてくれる。


朝食のプレートに並んだ、ずんだの鮮やかな緑色。指先に少しだけついた甘いペーストを、上の子が「おいしいね」と笑いながら舐めていた。コーヒーの深い苦味と、焼きたてのパンの香ばしさが混ざり合うレストランの空間。誰かがフォークを落とした音に、周囲の人がふふっと微笑む。そんな些細な、名前のつかない幸福感が、胃袋からゆっくりと身体中に広がっていく。贅沢とは、高い料理を食べることではなく、誰が何を食べているかを、ただ穏やかに眺めていられる時間のことなのだろう。


ホテルへ向かう車中、街灯がまばらな道で、不意に目の前に巨大な影が現れた。仙台大観音。暗闇から突如として現れたその圧倒的なスケールに、車内は一瞬の静寂に包まれ、その直後に「うわあ!」という子供たちの歓声が爆発した。夜の闇に浮かび上がる大きな手の造形。恐ろしいというよりは、なんだかとても優しい、大きな見守りを受けているような気分になった。予定にない驚きが、旅の輪郭をくっきりと描き出し、心に深い刻印を残していく。


バルコニーの手すりに、誰が置いたのか、小さなプラスチックの恐竜がちょこんと座っていた。その下には、色づき始めたゴルフコースの緑が、波のように広がっている。10月の光は、どこか透き通っていて、世界を少しだけ寂しく、でも美しく見せる。恐竜の視線に合わせて景色を眺めていると、この小さなプラスチックの塊が、この旅の密かな目撃者になっているような気がして、なんだか可笑しくなった。小さな視点から見る世界は、いつもよりずっと広くて自由だ。


最後の方は、もう誰も多くを語らなかった。ただ、隣に誰かが居るという体温だけが、十分な答えになっていた。完璧なスケジュールなんて、最初から必要なかったのかもしれない。子供が靴下を片方失くしたり、急に走り出したりと、小さな混乱の連続。けれど、そのひとつひとつがパズルのピースのように組み合わさって、今、心地よい充足感としてここにある。私たちは、ただ一緒に呼吸をしていた。それだけで、十分だったのだと思う。仙台ヒルズホテル / SENDAI Hills Hotelで過ごした時間は、家族という不器用な集団を、静かに結びつけてくれた。

チェックアウトのとき、子供たちが振り返って、大きな観音様に小さく手を振っていた。

  • 子供と一緒に、ホテルの広いお部屋で「秘密基地」ごっこをしてみるのがおすすめです。
  • 仙台大観音の圧倒的な大きさを、ぜひ夜のドライブで見つけてみてください。