← 戻る ホテルビスタ仙台

視界が白くなるまで、ただ隣にいた

視界が白くなるまで、ただ隣にいた

浴衣の帯が少しだけきつくて、呼吸をするたびに皮膚が擦れる、もどかしい感覚。七月の仙台は、空気そのものが湿った重いヴェールのように肌にまとわりつき、街全体が深い溜息をついているようだった。どこからか聞こえてくる蝉の鳴き声が、夏の午後の気だるさを加速させる。JR仙台駅からホテルビスタ仙台へと向かうわずか四分ほどの道のり、アスファルトから立ち昇る陽炎が視界を揺らし、どこからか漂ってくる屋台の香ばしい醤油の匂いが、記憶の底にある夏の情景を激しく揺さぶる。ふたりで歩く速度が微妙に合わず、誰の手が先に誰を引いたのかも分からないまま、私たちは逃げ込むように冷房の効いたロビーへと滑り込んだ。その瞬間、世界の色温度が急激に書き換えられる感覚が心地よい。客室のドアを開けると、カリモク家具の木の質感が指先にしっとりと馴染み、外の喧騒が遠い国の出来事のように消えていく。私たちが選んだのは、洗面台とトイレとバスルームが分かれた三点独立型の客室だった。その絶妙な間取りが、ふたりの間に心地よい「個」の距離を設けてくれる。一緒でありながら、同時に一人になれる。そんな小さな隙間があるからこそ、また隣にいたいと切に願えるのかもしれない。日本ベッド社製シルキーポケットマットレスに体を預けると、適度な反発力が優しく腰を支え、まるで深い水底へとゆっくりと沈み込んでいくような、心地よい喪失感に包まれる。浴衣の帯と格闘していた時の私は、きっと不器用にラッピングされた小包のように見えていたのだろうと、ふと独り言のような笑みがこぼれた。大浴場の「絹の湯」に身を浸せば、ぬるま湯の温度がちょうどよく、凝り固まった肩の力が、水に溶ける砂糖のようにゆっくりとほどけていく。立ち昇る白い湯気で視界がぼやけ、隣にいるあなたの輪郭が曖昧に溶け合う。そのとき、私たちは言葉を交わさなくても、同じリズムで呼吸していることに気づき、静かな充足感に満たされた。夜、窓の外で夜空を彩った花火を眺めていたときのことだ。鮮やかな光の華が咲いた後、ほんのわずかな時間を置いてから、ドォンという低い地鳴りのような音が鼓膜を震わせる。光と音のあいだにある、あのもどかしいラグ。私たちの関係も、きっとあんな感じなのだろう。相手が発した感情の光を、少し遅れて受け取り、時間をかけて丁寧に理解していく。そのタイムラグこそが、相手を深く知ろうとする慈しみの時間なのだと思う。翌朝、ビスタカフェで味わったずんだの、あの独特な粒感と、甘さの中に潜むかすかな塩気。口いっぱいに広がる若々しい緑の味が、眠っていた五感を静かに、けれど確実に呼び覚ましてくれた。チェックアウトして再び外の熱気に触れたとき、昨日よりも少しだけ、あなたの歩幅に合わせやすくなっていた気がする。私たちはまだ、お互いの正解をすべて知っているわけではないけれど、それでいい。ただ隣にいて、同じ温度の風に吹かれている。それだけで、十分すぎるほど満たされていた。きっと、この旅で得たのは明確な答えではなく、心地よい問いかけだったのだろう。ふたりで歩き出した駅までの道、昨日よりも少しだけ、繋いだ手の力が強くなっていた。

  • 三点独立型の客室を選んで、共有する時間と、ひとりで静かに整える時間のバランスを大切にしてみてほしい
  • 大浴場の「絹の湯」で、言葉にならない感情を湯気に溶かしながら、ただ隣にいる心地よさを味わってほしい