「誰が一番最後に駅に着くか賭けよう」なんて言い出したのは、案の定、一番遅刻しそうなあいつだった。アスファルトから立ち上る陽炎に巻かれながら、全力で駆け抜けた福島駅。全員が汗だくで合流したとき、互いのひどい顔を見て同時に吹き出した。湿り気を帯びた夏の風が頬を撫で、予定通りにいかないことがこの旅のデフォルトになる予感がした。
天神祭の喧騒の中、屋台で買ったたこ焼き。ソースの焦げる香ばしい匂いと、鼻に抜ける濃厚な出汁の香りが、夏の正体なのだと思った。口の中を火傷するほどの熱さに「あちっ!」と声を上げながら、誰が一番先に食べきれるか競い合う。ハフハフと息を吐き、くだらないことに全力になれるこの時間が、友人という生き物の心地よい正体なのだろう。
「ねえ、今のあなた、完全に溶けたバニラアイスみたいだよ」と、誰かが意地悪く笑った。湿度七十五パーセントの大阪。肌にまとわりつく不快な空気の中で、私たちは互いの身なりを徹底的にディスり合うことで、なんとか正気を保っていた。不機嫌そうに口角を上げながら、それでも隣にいる安心感だけは、本物だった。
ホテル阪神 大阪のスーペリアダブルに飛び込み、真っ先に浴槽に湯を溜めた。五十分を超える天然温泉は、まるで地球の芯から直接汲み上げたかのように熱い。湯気が視界を白く染める中、温度が下がるのを待つあのもどかしい時間。誰が最初に入るか、真剣にじゃんけんで決めるくだらなさが、旅のテンポにちょうどよかった。
十四階の窓から見下ろす、宝石を散りばめたような夜景。遠くで上がる花火の音が、低い振動となって厚いガラス越しに胸に伝わってくる。賑やかな街の喧騒から切り離された静寂の中で、ただ光の粒を眺める時間は、贅沢というよりは、深い呼吸に近い。言葉にしなくても、同じ景色を共有しているという静かな連帯感だけがそこにあった。
二万歩歩いた後のベッド。パリッと乾いたシーツのひんやりした感触が肌に触れたとき、ようやく自分が人間であると思い出せた気がした。裸足で踏みしめたタイルの、芯まで冷たい温度が心地よく、蓄積した疲労感がゆっくりと、心地よい重みとなって身体に染み込んでいった。
浴衣の帯がうまく結べなくて、三人で格闘すること一時間。さらさらとした生地が指の間をすり抜け、もどかしさに誰かが声を上げる。結局、適当に結ばれたそれは、どこからどう見ても不格好だったけれど、それが一番私たちらしくて、笑いが止まらなかった。正解の結び方なんて、この旅においてはどうでもいいことだった。
完璧な旅なんて、きっと退屈なだけだ。予定通りにいかないこと、誰かが不満を漏らすこと、そして最後にはそれを笑い飛ばせること。そんな不完全なパズルのピースが、一番心地いい形をしているのかもしれない。私たちはただ、その不完全さを分かち合い、記憶に深く刻みたかっただけなのだ。
冷えたサイダーの泡が、喉の奥で心地よく弾けた。
- 福島駅からの徒歩一分という近さを活かして、あえて目的地を決めない散歩を楽しんで。
- 部屋の天然温泉に早めに浸かって、自分たちだけの「最適温度」を探る時間を過ごして。