← 戻る 琉球温泉 瀬長島ホテル

まぶたの裏に残った、滑走路の点滅

まぶたの裏に残った、滑走路の点滅

「絶対こっちだって」という根拠のない自信について

「ねえ、さっきの角、三回目じゃない?」「いや、違うし!グーグルマップがちょっとバグってるだけだって」「バグってるのは君の方向感覚でしょ。もう諦めて、あっちの白い建物の方に行こうよ」

誰が一番先に方向を見失うかというくだらない賭けをしていたが、結果的に全員が迷子になった。じっとりと湿った潮風が首筋にまとわりつき、歩くたびにサンダルの底が熱いアスファルトに吸い付くねちゃねちゃとした音が響く。けれど、誰も本気で怒ってはいない。むしろ、予定外の路地裏で、蛍光色のトロピカルジュースを啜りながら、お互いの絶望的な記憶力のなさを笑い合う時間が、この旅の正解なのだと密かに合意していた。太陽が肌を焼く熱さと、氷がグラスの中でカランと鳴る涼やかな音。そのコントラストが、私たちの笑い声をさらに高く、軽やかに弾ませていた。

視界の端で明滅する、夜の呼吸

琉球温泉 瀬長島ホテルにチェックインし、重厚なドアを開けた瞬間にもたらされたのは、洗い立てのリネンが放つひんやりとした重みと、かすかなアロマの香りだった。クラブフロア按司の空間は、静寂が幾層にも積み重なっている。ベッドに体を沈めると、上質なマットレスがゆっくりと私の輪郭を記憶し、心地よい拘束感で包み込んでくれる。窓の外には「エアポートビュー」という名の、光のパルスが広がっていた。滑走路を走る飛行機のライトが、規則的に、けれどどこか不器用に点滅している。その光をじっと見つめてから目を閉じると、まぶたの裏にオレンジ色の残像が焼き付き、暗闇の中で光が踊る。それはまるで、この島が静かに呼吸しているリズムのようだった。

足元の厚いカーペットは、歩くたびに足首を優しく包み込み、外の喧騒を完全に遮断する。けれど、時折忍び込む遠いエンジンの低音だけが、ここが旅の途上であることを思い出させてくれた。ディナーにいただいた琉球もろみ酢ハニーローストスペアリブの、指先に残る甘い粘り気と、口の中で弾ける濃厚な酸味。その味覚の記憶が、部屋の静けさと混ざり合い、心地よい倦怠感へと変わっていく。完璧な計画よりも、こうした不完全な空白がある方が、旅としての密度は高くなる。深夜、トイレまで歩く数歩の距離で、タイルの冷たさが足裏から伝わってきたとき、私は自分が今、とても自由な場所にいることを確信した。窓から差し込む月光が、部屋の隅に静かな影を落とし、時間がゆっくりと溶けていく感覚に浸っていた。

湯気の中に溶けていく、本当のこと

「……なんか、ここに来てよかったな」「急にどうしたの。温泉で脳みそ溶けた?」「いいじゃん。たまにはこういうこと言っていいでしょ。っていうか、本当に最高だったよ、今回の迷子」

龍神の湯から上がった後の、肌がわずかにぴりつく心地よい感覚。髪から滴る水滴が肩に触れ、夜の冷気を運んでくる。浴衣の柔らかな生地が肌に触れるたび、心まで解きほぐされていくのがわかった。部屋の照明を落とし、月明かりだけが差し込む青い空間で、私たちはいつの間にか、昼間の喧騒が嘘のように静かなトーンで話し始めていた。普段なら「恥ずかしい」で片付けてしまうような、誰にも言えない不安や小さな後悔。そういうものが、温泉の熱で緩んだ心から、自然とこぼれ落ちていく。誰かが小さく笑い、誰かが静かに相槌を打ち、答えの出ない問いをただ共有する。解決しなくていい。ただ、同じ温度の空気を吸い、同じ静寂を分かち合っているという事実だけで、十分な気がした。

窓の外で、最後の一機が夜の闇に溶けて消えていく。

  • ウミカジテラスまで歩くときは、あえて地図を閉じ、潮風の吹く方向へ歩いてみるのがおすすめ。
  • 龍神の湯の後は、時間をかけてゆっくりと水分を摂り、部屋の静寂に身を委ねてほしい。