← 戻る 琉球オリオンホテル 那覇国際通り

浴衣の袖が、ほんの少しだけ触れた距離

浴衣の袖が、ほんの少しだけ触れた距離

「ねえ、こっちで合ってる?」

「ねえ、こっちで合ってる?」
「たぶん」
「たぶんって何。もう三回同じ角を曲った気がするんだけど」
もどかしげに唇を尖らせる君に、僕は苦笑いして肩をすくめた。下駄がアスファルトを叩く乾いた音が、夜の国際通りに小さく反響している。浴衣の帯が少しだけきつく、呼吸をするたびに肋骨に触れる。隣を歩く君の肩と私の肩が、歩幅がずれるたびにわずかに触れては離れた。そのたびに、心臓の鼓動が指先まで伝わるような心地がした。湿った夜風が、首筋に張り付いた髪をゆっくりと撫でていく。私たちはどちらからともなく、歩く速度を落とした。

喧騒を脱ぎ捨てて、二人だけの静寂へ

牧志駅からホテルまで歩く数分間、モノレールの走行音が頭上で低く唸り、街の喧騒は、誰かが意図的にボリュームを上げたラジオのように激しく耳を打っていた。けれど、琉球オリオンホテル 那覇国際通りの重厚な扉をくぐった瞬間、世界は一変した。外の喧騒は心地よいフィルターを通したように遠のき、代わりに洗練された静寂と、かすかに漂うシトラスのような清涼な香りが私たちを迎えてくれた。プレミアツインの客室に入り、冷房の冷たい空気が熱を持った肌を鋭く、けれど優しく包み込む。その温度の差に、ようやく辿り着いたのだという深い安堵が、波のように押し寄せた。

シモンズ製ベッドに身を投げ出すと、上質なリネンのひんやりとした感触が肌に触れ、マットレスが身体の曲線に合わせてゆっくりと沈み込んでいく。背中の緊張がほどけていく感覚は、硬い地面の下でじっと春を待つ種子が、外殻を破ってゆっくりと伸びていく瞬間に似ていた。都会のコンクリートという圧力に押し潰されそうになりながらも、誰にも気づかれない速度で、私たちの間にある「何か」が、静かに、けれど確実に根を広げていた。

ふと思い出して、小さく笑ってしまう。祭りの最中、浴衣の裾をうまく捌けずに、何度も自分の足に躓いていた君のこと。僕はそれを笑わなかったけれど、その代わりに君の歩幅に合わせて、わざとゆっくり歩いていた。その不器用な優しさが、どんなに洗練された言葉よりも正確に、今の私たちの距離を教えてくれていた。

夜には、オリオンビアダイニングで限定のクラフトビールを味わった。グラスの中で黄金色に輝く液体が、喉を心地よく刺激し、心地よい酔いが二人の会話をさらに柔らかくしていく。

翌朝、一階のレストランで味わった島豚ソーセージの香ばしい匂いが、今も鼻の奥に残っている。炭火で焼かれた皮がパチンと弾け、中から溢れ出した濃厚な脂の甘みが口いっぱいに広がった。隣でコーヒーを啜る君の横顔を見て、特別な約束がなくても、ただ同じ温度の朝食を分かち合えるだけで十分なのだと思えた。窓の外には、相変わらず賑やかな国際通りが広がっているけれど、この部屋の中だけは、私たちだけの呼吸のリズムで満たされていた。それは、誰にも邪魔されない、とても贅沢な空白だった。

夜空に咲いた大輪の花火が、カーテンの隙間から一瞬だけ部屋を白く染めた。

  • 浴衣に着替えたら、あえて地図を閉じて、国際通りの路地裏を迷い歩いてみて。
  • オリオンビアダイニングで、限定のクラフトビールを飲みながら夜を語り合ってね。