← 戻る ルネッサンス リゾート オキナワ

バルコニーで、肩と肩の間にあった静寂

「ねえ、あそこまで泳いでいけるかな」

「無理だと思うよ」と僕は答え、少しだけ笑った。「でも、そう思うのはいいことかもしれない」
君はバルコニーの手すりに頬を寄せて、淡いエメラルド色に溶け込む水平線をじっと見つめている。潮風が髪を揺らし、かすかに潮の香りが鼻をくすぐった。
「本当は、行ける気がするんだよね」
「うん、たぶんね」
僕たちは答えを出さないまま、ただ波が寄せては返す、心地よいリズムに身を任せていた。

答えを急がない、青い時間のなかで

裸足で踏みしめたバルコニーの床は、早朝のひんやりとした温度を帯びていた。十月の恩納村は、暑すぎず、かといって寂しくもない。ちょうど心地よい二十五度くらいの空気が、絹のように肌の上を滑っていく。ルネッサンス リゾート オキナワの部屋で目を覚ましたとき、真っ先に目に飛び込んできたのは、カーテンの隙間から漏れる淡い水色の光だった。まるで部屋全体が大きな水槽になったような、静謐で、どこか現実感を失った時間。

ふと気づいたことがある。波が砕ける白い飛沫が目に見えてから、その音が耳に届くまでに、ほんのわずかな空白がある。その数秒の遅延が、僕たちの会話のリズムに似ている気がした。何かを言いかけて、飲み込んで、相手の表情を確認してから、ようやく言葉を置く。その不器用な間こそが、今の僕たちにとって一番心地よい距離感だったのかもしれない。

朝食に運ばれてきた冷えたパパイヤとパイナップルの果実が、舌の上で鮮やかに弾ける。鋭い酸味と濃厚な甘さが、眠っていた感覚をゆっくりと呼び覚ましていく。その後、二人で向かったマリンプログラムでは、イルカたちが跳ねた瞬間の冷たい水しぶきが顔にかかった。不意に訪れた冷たさに、君が小さく肩をすくめる。その拍子に、僕は君の自然な表情を撮ろうとしてシャッターを切ったけれど、ピントがずれて、写っていたのはぼやけた君の肩だけだった。画面を見た僕たちは、同時にふふっと笑い合った。計画されたどのイベントよりも、その小さな失敗が、この旅の中で一番本物の記憶として刻まれた気がする。

午後は、陽光を反射してキラキラと輝くプールサイドで、ただ時間が過ぎるのを眺めていた。ホテルの廊下を歩けば、厚いカーペットが子供たちの賑やかな足音を柔らかく吸収している。けれど、部屋に戻ればまた、二人だけの静寂が待っている。リネンのシーツはパリッとしていて、肌に触れるたびに心地よい緊張感と安心感が同時にやってくる。僕たちはまだ、お互いの正解をすべて知っているわけではない。けれど、この場所で、ただ隣にいて、同じリズムで呼吸をしている。それだけで十分だと思えた。不確かさを含んだまま、一緒にいることが許される場所。そんな安心感が、この青い景色には溶け込んでいた。

白いカーテンが風に舞い、二人の影が床の上で静かに重なっていた。

  • 早朝の海辺で、イルカたちの穏やかな呼吸にそっと耳を澄ませてみて。
  • バルコニーの椅子に深く腰掛け、空の色がゆっくりと溶け合う時間を。