ロビーに足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりついていたねっとりとした熱気が、冷たい空気に弾き飛ばされた。誰が一番先に「暑すぎて死ぬ」と口にするか賭けていたけれど、結局、全員が同時に深いため息をついた。豪華なシャンデリアが放つ黄金色の光に包まれながら、私たちの会話は「コンビニまで何分かかるか」という、あまりに世俗的な話題で持ちきりだった。
重たい陶器の皿に、山盛りになった色とりどりの料理。ビュッフェ「シーフォレスト」では、互いの盛り付けの雑さを笑い合い、カトラリーが皿に当たる軽やかな音が響く。口の中でとろける完熟マンゴーの、暴力的なまでの甘さと冷たさ。喉を通るたびに、芯まで熱くなった体温が心地よく下がり、さっきまでの言い争いさえ心地よいスパイスに変わった。
「花火が始まるまであと十分」という通知が届いたとき、誰か一人が靴下を履き忘れていることに気づいた。慌てて部屋に戻る足音が、静まり返った廊下に不協和音のように響く。結局、打ち上げ花火の最初の数発は見逃したけれど、夜空に弾けた深い青い光が、隣で呆れて笑っている友人の横顔を不自然に照らしていた。
ホテルモントレ沖縄 スパ&リゾートの白亜の回廊は、まるでヨーロッパの古城に迷い込んだかのように端正で、静謐な空気が流れている。けれど、そこをビーチサンダルでパタパタと歩く私たちは、どう見ても風景に馴染んでいなかった。誰かが「私たち、この空間の格を下げてるよね」と苦笑いしたが、その場違いな感覚こそが、最高の贅沢に感じられた。
深夜三時、エアコンの低い唸りだけが部屋の静寂を埋めている。バルコニーに出ると、湿り気を帯びた夜風が髪をなで、遠くで波が砂を洗う規則的な音が心地よい。さっきまで大騒ぎしていたのが嘘のように、夜の海は深く、重い。孤独ではないけれど、一人でいる感覚。そんな空白の時間こそが、旅の本当の目的だったのかもしれない。
裸足で踏みしめたバスルームのタイルの、ひんやりとした滑らかな感触。スパのような贅沢な空間で、シャワーから降り注ぐ温かな湯が、一日中歩き回った足の疲れをじわじわと溶かし出していく。鏡に映った自分の顔は、日焼けして赤く、不格好だったけれど、それがこの八月の勲章のように思えて、なんだか悪くない気分だった。
村の盆踊りに紛れ込んだとき、リズムに乗り切れない私たちが、お互いのダンスのひどさに腹を抱えて爆笑した。太鼓の地響きのような音が心臓の鼓動と重なり、意識が心地よく遠のいていく。汗ばんだ空気が混ざり合い、計画外の路地裏で出会った冷たい飲み物の、喉を焼くような刺激的な味が今でも鮮明に思い出される。
チェックアウトのとき、誰かが「また来年も、同じように適当な計画で来よう」と笑った。ホテルの重厚な扉が閉まる、鈍い音。振り返ると、そこにはまだ、私たちの騒がしい残響が陽炎のように漂っている気がした。完璧な旅ではなかったけれど、その不完全さこそが、私たちを再びここに呼び戻すはずだ。
波打ち際にぽつんと残された、片方だけのサンダル。
- ビュッフェのマンゴーは、迷わず二回おかわりしてほしい。
- 白い回廊を、あえて一番ダサい格好で歩いてみて。