エレベーターのボタンの冷たい感触と、9階へ昇る時のわずかな耳の圧迫感。それが、今回の旅の始まりだった気がする。ホテルアクアチッタナハに足を踏み入れた瞬間、そこには都会の喧騒を丁寧に濾過したような、澄んだ青い空気が漂っていた。
同じ夜、二つの温度
液体のサファイアに溶け込んでいるような感覚だった。シースループールの底から見える那覇の街明かりは、まるで巨大な回路基板を水底から眺めているみたいで、不思議と静かだった。水面に漂う自分の呼吸の音だけが心地よくて、このまま透明な膜に包まれて、誰にも見つからずに夜が明けてもいいかもしれない。そんな、贅沢な孤独に浸っていた時間だったと思う。
「おい、下から丸見えだって!」という誰かの叫び声で、一気に現実に引き戻された。大人のリゾート気分で浸っていたはずなのに、結局いつもの調子で水掛け合いが始まり、誰が一番情けない顔で潜れるかという、くだらない賭けに発展した。水しぶきが視界を遮り、笑いすぎて肺が痛くなる。あんなに洗練された空間にいたのに、私たちの振る舞いは完全に場違いだったけれど、それが最高に愉快だった。
同じ食事、二つの記憶
地中海の朝市をテーマにした朝食会場は、焼きたてのパンの香ばしさと、柑橘系の爽やかな香りが混ざり合っていた。白いリネンの感触と、カップの中でゆっくりと揺れるコーヒーの濃い茶色。窓から差し込む午前7時の光が、プレートの上に盛られた色とりどりのフルーツを宝石みたいに照らしていた。ただそこに在る色の鮮やかさに、言葉を失うような、静かな充足感があった。
結果どうなったと思う?「誰が一番プレートに盛り付けを美しくできるか」という賭けをしたはずなのに、気づけば全員が山盛りのおかずを積み上げていた。誰が一番多く食べたかを競い合い、互いの食欲にツッコミを入れ合う。賑やかな声とカトラリーが触れ合う音が心地よいリズムになっていて、正直、味よりもその場のカオスな空気感に食欲をそそられていた気がする。あんなに豪華なメニューがあったのに、結局一番盛り上がったのは、誰の皿に一番変な組み合わせの料理が乗っているかという議論だった。
私たちが唯一同意したこと
チェックアウトの朝、私たちはエアウィーヴのマットレスに深く沈み込んだまま、しばらくの間、誰一人として口を開かなかった。身体がマットレスの弾力に完全に委ねられ、重力から解放されたような感覚。部屋に満ちていたのは、沖縄の11月特有の、肌にまとわりつくような心地よい湿度だった。その湿気が、私たちを緩やかに繋ぎ止めていたのかもしれない。誰かが「もう一時間だけ、ここにいてもいいかな」と呟いたとき、私たちは同時に深く頷いた。そこには、いじり合いや冗談を必要としない、完璧な沈黙があった。ホテルアクアチッタナハの部屋で過ごしたあの空白の時間は、どんな観光スポットを巡るよりも、私たちの距離を正しく調整してくれた気がする。
泊ふ頭まで歩いて2分。ホテルの洗練された青から、潮風の匂いがする本物の海へ踏み出したとき、足元のコンクリートの温度が少しだけ上がった。
- 慶良間諸島へ向かうなら、泊ふ頭まで歩く道中の、潮の香りと街の喧騒が混ざる境界線を楽しんでほしい
- クラブラウンジで泡盛を飲みながら、あえて何も計画せずに夜景を眺める時間を設けることをおすすめする