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水色の境界線が、オレンジに溶けていった夜

水色の境界線が、オレンジに溶けていった夜

もし、この部屋を予約するかどうか、まだ迷っているのなら。あるいは、誰かと一緒にいて、それでもどこか言いようのない隙間を感じているのなら。そんなあなたへ、10月の午後の光と一緒にこの手紙を贈ります。


水平線が街に溶け出す、13階のプリズム

裸足で踏んだプールのタイルの温度が、ちょうど心地よく冷たかった。ヒューイットリゾート那覇の13階に辿り着いたとき、まず耳に入ってきたのは、地上から切り離された場所だけが持つ、低く、けれど密度の濃い風の音だった気がする。インフィニティ・エッジ・プールに身を浸すと、目の前の水面がそのまま那覇の街並みに繋がっているように見えた。水と空、そして遠くのビル群。その境界線が、夕暮れのオレンジ色に塗り潰されて、どこまでがプールでどこからが世界なのか、分からなくなる瞬間がある。光が屈折して、視界の端で小さな虹のような粒子が踊っている。私たちはそこに、ただ浮かんでいた。泳ぐというよりは、重力から少しだけ解放されて、お互いの呼吸の速さを確かめ合っていたのかもしれない。水の中で指先が触れたとき、その温度が体温なのか、それとも水温なのか、判別がつかない。でも、それでいいなと思った。はっきりと定義できないまま、ただ隣に誰かがいるという事実だけが、凪いだ水面のように静かに広がっていたから。3Dホログラムの光が夜の闇に点滅し始めると、水面に反射した色彩が、あなたの瞳の中で小さく揺れていた。それは、どんな言葉よりも正確に、今の私たちの距離を教えてくれていた気がする。


計画のない歩幅と、少しだけ不格好な記憶

ホテルを出て、安里駅から国際通りへと向かう道すがら、10月の沖縄の空気は、まだ少しだけ湿り気を帯びていて、肌にまとわりつくような柔らかさがあった。誰が決めたわけでもないけれど、私たちはあえて地図を開かなかった。ふと漂ってきた、どこかの店から漏れる焼き物の香ばしい匂いに誘われて、細い路地へ迷い込む。道端に咲く名もなき花が、街灯の光に照らされて、少しだけ寂しそうに揺れていた。そんな景色を眺めながら、私たちはゆっくりと歩いた。歩幅を合わせるということではなく、ただ、相手が立ち止まったときに自分も止まる。そんな不器用なリズムで十分だった。途中で買った、出来立てのサーターアンダギーを半分に分けて食べたとき、指先に付いた砂糖のジャリジャリとした感触が、なんだか可笑しくて。ふと、今の最高の瞬間を写真に残そうとスマートフォンを向けたけれど、手が滑って、画面にはひどくブレた、けれど最高に楽しそうに笑っているあなたの顔が写っていた。完璧な構図じゃないし、ピントも合っていない。けれど、その不格好な一枚こそが、この旅で一番大切にしたい断片になる気がした。部屋に戻り、冷たいリネンのシーツに身を沈めたとき、窓の外に見える街の灯りが、まるで誰かがこぼした宝石のように散らばっていた。私たちはもう、無理に言葉を重ねる必要はなかった。ただ、同じ空間で同じ静寂を共有していることが、何よりも贅沢なことだと気づいた夜だった。


街の灯りが、ゆっくりと点滅する夜の底から。
  • 屋上プールの縁に寄りかかって、街の灯りが完全に点灯するまでの15分間を、ただ黙って眺めてみてほしい。
  • 国際通りへ向かう途中の、ガイドブックに載っていない小さな路地で、あえて迷子になる時間を楽しんで。