← 戻る ホテルエピナール那須

濡れた靴下の匂いと、雨の青色

濡れたカーペットの、少し重たい感触から旅は始まった。6月の那須は、森が深く呼吸しているかのように空気が水分をたっぷりと含み、呼吸をするたびに肺の奥までしっとりと潤う。家族旅行というのは、ある種の不器用なチーム作戦のようなものだ。誰かが不意に泣き出し、誰かがわがままを言い、大人はそれをなだめながら、目的地という名のゴールへ向かってゆっくりと行進する。

そんな喧騒の途中で、ホテルエピナール那須の重厚なドアが開いたとき、そこには心地よい「逃げ場」が広がっていた。外の湿った冷気とは異なる、温かな光と柔らかな香りに包まれた空間。それはまるで、深い森の中で見つけた静かな陽だまりのような安心感だった。

家族の記憶に刻まれた、5つの断片

ベビー&キッズルームの低いベッド。ひんやりとしたリネンの滑らかな手触りと、床に近い視点から見える天井の広がり。大人が腰をかがめなければ目が合わないその高さに、子供たちだけの自由な王国が広がっていた。一番下の子が、最初に「ここなら僕が主役だ」と弾けるような笑顔で叫んだ。大人の視線という枠組みから解放され、子供と同じ高さで転げ回る時間は、日常の忙しさの中で忘れかけていた、純粋なリズムを思い出させてくれた。

ビュッフェに並ぶ那須野菜の色彩。瑞々しい深い緑や、心躍る鮮やかな赤。口に含んだ瞬間に広がる、大地の力強さを感じさせる土の匂いと濃い甘み。長女が、どの野菜を皿に乗せるか、真剣な眼差しで5分ほど立ち尽くしていた。その小さな迷いの時間さえも、この場所では贅沢な空白のように感じられた。料理の味以上に、迷いながらも自分の「好き」を探していた彼女の横顔が、記憶に深く刻まれている。

露天風呂から立ち昇る白い湯気。肌を刺す6月の冷たい高原の空気と、芯から体を包み込む熱いお湯の鮮やかな境界線。指先がふやけていく感覚とともに、心の中に凝り固まっていた日常の緊張が、ゆっくりと湯気に溶け出していく。父親が、ふっと深い溜息をついた。それは疲れではなく、ようやく「父親」という役割から離れ、自分自身に戻れたときに出る、深い安堵の音だったのだろう。

廊下に点々とついた雨の足跡。濡れた靴下から染み出した水滴が、絨毯の上に小さな点描画を描いていた。ゴムの匂いと、雨に濡れた土の香りが混ざり合い、廊下に漂っている。次男が、自分の足跡を追いかけて「雨の追いかけっこだ」とはしゃいでいた。本来なら注意するところだけれど、ここではその乱雑ささえも、旅という名の自由な形であるように思えて、ただ微笑んでいた。

プールの青い水面と振動。水に飛び込んだ瞬間に世界がふっと静まり返る、あの心地よい遮断感。それからすぐに、子供たちの高い笑い声が水面を震わせて伝わってくる。家族全員で、ただ水に浮いているだけの時間。重力から解放され、お互いの存在をただ心地よく感じる。一番上の子が、水中で変な顔をして笑ったとき、私たちは同時に笑った。そんな、なんてことない瞬間こそが、この旅で一番大切にしたかった宝物だった。

雨音が消えたあとの部屋に、柔らかな寝息と森の静寂だけが満ちていた。

  • ベビー&キッズルームを選んで、親としての「正解」を求める緊張感を手放してみること。
  • 朝食ビュッフェで、見たことのない地元の野菜を一つ選び、その未知の味を家族で分かち合うこと。