← 戻る ホテルリブマックス名古屋桜通口

小さな靴が脱ぎ捨てられた、春の陣地

小さな靴が脱ぎ捨てられた、春の陣地

家族の体温が溶け合う、五つの記憶と手触り

スランバーランドのベッド。ホテルリブマックス名古屋桜通口の部屋に足を踏み入れた瞬間、まず目に飛び込んできたのは、清潔な白に包まれた大きなベッドだった。空気清浄機が静かに空気を浄化する微かな唸りと、枕元のランプが落とす琥珀色の光。深く沈み込むマットレスの感触は、まるで都会の喧騒から切り離された白い雲の上に浮かんでいるかのようで、一日の疲れがじわりと溶け出していく。誰がどこで寝るかで小さな言い争いが起きたけれど、結局は全員で一つの大きな島のように重なり合って眠った。「見て、跳ねるよ!」と歓声を上げて、真っ先にダイブしたのは次男だった。

電子レンジの低い唸り声。深夜、コンビニで買い込んだ地元の惣菜を温める時の、あの規則的な振動と、狭い部屋いっぱいに広がる味噌カツの甘辛い香り。電子レンジのタイマーが「チン」と鳴った瞬間、部屋の中には小さな暖炉があるかのような温もりが広がった。狭い空間だからこそ、誰かが何かを食べている気配がすぐに伝わり、それが不思議と心地よい安心感に繋がる。「あ、いい匂い!」と、一番に鼻をクンクンさせて駆け寄ってきたのは長女だった。

コインランドリーの温もり。乾燥機から出したばかりのタオルの、顔に押し付けたくなるような熱さと、洗剤の清潔な香りが鼻腔をくすぐる。旅の途中で汚れた服が、また真っさらな状態で戻ってくる時間は、嵐のような観光スケジュールの合間に訪れる唯一の静寂だった。もふもふとした厚みのある質感に顔を埋め、心地よい静電気に小さく身を震わせながら、幸せそうに目を細めていたのは末っ子の長男だった。

駅までの六分間の歩道。頬を撫でる春風の少し冷たい温度と、アスファルトに散らばる薄桃色の花びら。ホテルリブマックス名古屋桜通口からJRセントラルタワーズへ向かう道すがら、都会のグレーな景色の中にふと現れる桜の色彩が、視界を柔らかく塗り替えていく。まるでコンクリートの街にピンク色の川が流れているかのようだ。風に舞う花びらを「妖精さんが踊ってる!」と言って追いかけ始めたのは、次男だった。

脱ぎ捨てられたスリッパ。玄関先に乱雑に転がっている、大人用と子供用のサイズの違う布製の質感。部屋の隅ではVODの画面が淡く光り、誰かが使い古したリモコンがベッドの上に転がっている。完璧に整頓された空間よりも、誰かがそこにいたという生活の痕跡が散らばっている方が、本当の意味で「心から休めている」と感じる。この散らかり具合こそが、家族で笑い合った時間の地図なのだ。自分のスリッパがどこへ消えたか分からず、右足だけ裸足で冷たい床を歩いていたのは、私だった。

窓の外で揺れる桜の枝を眺めながら、明日もまたこの賑やかな陣地に戻ってこようと、静かに思った。

  • 名古屋城の桜まつりへは、少し早起きして向かうのがおすすめ。朝の澄んだ空気の中で見る金鯱と桜は、格別の美しさがあります。
  • コインランドリーでパジャマを洗い替えて、温かいままに身に纏う時間は、子供たちにとっても最高の贅沢になるはずです。