← 戻る ベッセルホテルカンパーナ名古屋

午前2時のコンビニ袋が、一番正しい音をしていた

深夜の空腹は、旅の正解を塗り替える

指先にまだ、昼間に眺めた藤の花の、しっとりと湿った紫色の記憶が張り付いている。五月の名古屋の夜気は、若葉の青い匂いと、大型連休特有のどこか浮ついた熱気が混ざり合い、肌にまとわりついていた。ベッセルホテルカンパーナ名古屋に辿り着いたとき、私たちの足は心地よい疲労で限界を迎えていたが、ふとした沈黙の中で誰かが「ねえ、何か食べない?」と呟いた。その一言は、真っ白な画用紙に落とした一滴のインクがゆっくりと滲んでいくように、私たちの意識を「休息」から「密かな快楽」へと塗り替えていった。徒歩三分のコンビニまで、誰が一番先に歩き出すかという、子供のようなくだらない賭けをしながら夜の街へ踏み出す。戻り道、プラスチックの袋がカサカサと鳴らす乾いたリズムが、静まり返った廊下に心地よく響いていた。部屋に入り、靴を脱いだ瞬間に足裏へ伝わったフローリングのひんやりとした温度。その解放感こそが、この旅で一番欲しかった贅沢だったのかもしれない。

咀嚼の合間にこぼれ落ちる、不完全な旅の記憶

「ねえ、信じられないけど、私たち今日、予定してた場所の半分も回ってないよね」

ベッドの上に広げられたコンビニの袋から、手づかみで唐揚げや名古屋限定の菓子パンを取り出しながら、誰かが呆れたように、けれど幸せそうに笑った。シモンズ社製ベッドの深く、包み込まれるようなふかふかした感触に身体を沈め、私たちは小さな円になって座る。部屋の照明を落とし、VODシアターから流れる意味のない映画のBGMが、心地よいノイズとなって空間を埋めていた。

「いいじゃん。あの行列に並んでたら、今頃まだ外で立ってたよ。結果的に、あの路地裏で見つけた変な看板の店に入ったのが正解だったし」

「それな。まあ、地図を読み間違えて逆方向に三十分も歩いたのは、誰の責任? 賭けてもいいけど、多分リーダーの君でしょ」

「ちょっと! あれは地図アプリが嘘をついたの。というか、あの時の君の『こっちで合ってる気がする』っていう根拠のない自信の方が怖かったし」

口いっぱいに詰め込んだコンビニスイーツの、暴力的なまでの甘さが舌の上でとろけていく。普段なら「太る」とか「健康的じゃない」とか、大人の理屈で自分を縛るはずなのに、ここではその背徳感さえが最高の調味料に感じられた。もしかしたら、旅というものの本質は、完璧な計画を完遂することではなく、こういう「予定外の空白」をどれだけ愛せるかにあるのかもしれない。私たちは、お互いの不完全さを笑い合うことで、ようやく旅人の緊張を脱ぎ捨て、本当の意味でこの街に溶け込むことができたのだと思う。

満たされた胃袋と、凪のような静寂

食べ終えたパッケージが散らばり、部屋の中には心地よい倦怠感が、深い霧のように漂い始めた。賑やかだった会話が、潮が引くようにゆっくりと、本当にゆっくりと消えていく。それは、濃い色のインクが水に溶け、最後には透明に近い淡い色に変わっていくプロセスに似ていた。大浴場とサウナで身体を芯から温めてきたせいか、意識が心地よく遠のいていく。エアウィーヴマットレスの適度な反発力が、疲れ切った身体を優しく支えてくれる。裸足で触れる床の感触が、今はとても柔らかく、慈しむように感じられた。誰かが小さくあくびをし、その音が静寂に溶け込む。もしかすると、私たちはこの贅沢な静けさを共有するために、わざわざ遠くまで来たのかもしれない。言葉にしなくても、隣に誰かがいて、同じ温度の空気を吸っている。その事実だけで、心は十分に満たされていた。もう何も計画しなくていい。明日の朝、六時半から始まるビュッフェで何を食べるかという、ささやかな期待だけを抱いて、私たちは深い眠りの海へと落ちていった。

暗い部屋の隅で、スマートテレビの待機電力が、小さな星のように静かに瞬いていた。

  • 名古屋限定の手羽先風スナック。冷えたビールと共に、深夜の高揚感をさらに加速させて。
  • コンビニの濃厚なプリン。一日の疲れをすべて甘い幸福感で塗りつぶしたい夜にぴったり。