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濡れたアスファルトに反射する、誰のものか分からない光

濡れたアスファルトに反射する、誰のものか分からない光

駅の改札を抜けた瞬間、肌にまとわりつくような、少し湿った秋の空気が鼻腔をくすぐった。潮風の香りが混じったその風に、私たちは「誰が一番最初に迷うか」というくだらない賭けを仕掛ける。けれど、結果的に全員で同じ方向に間違えた。人の流れが緩やかな川のように押し寄せ、私たちはその心地よい濁流に身を任せ、ただ漫然と、街の呼吸に溶け込んで歩いていた。



指先にしっとりとまとわりつく、カステラの濃厚な甘さ。黄金色の生地を一口含めば、砂糖の粒子が体温でほどけ、表面張力で繋がっていた心地よい重みが、舌の上でじわっと広がっていく。本当はもっと洗練されたカフェに行くはずだったけれど、駅前の古びたベンチで、頬を赤くしてこれを頬張っていた時間が、結局はこの旅で一番の正解だったのかもしれない。


「ねえ、地図の読み方、根本的に間違ってるよね」誰かの呆れたような呟きが、静かな路地に響いた。そこから始まった言い合いは、二股に分かれた川のようにどんどん方向性を失い、混沌としていく。でも、ぶっちゃけ目的地なんてどうでもよくなっていた。迷路のように入り組んだ坂道を歩くたびに、私たちの会話も心地よく攪拌され、笑い声が石畳に跳ね返っていた。


ハロウィーンの飾り付けが始まった街角で、誰かが突拍子もない小道具を買い込んで大騒ぎしていた。プラスチック製の安っぽい仮面を被り、お互いの滑稽な姿に、笑い声がコップから溢れる水みたいに止まらなくなった。周りの視線なんて、もう霧のように消えていた。あの時の、くだらなすぎて呼吸が止まりそうになった感覚は、きっとこのメンバーでしか共有できない、秘密の宝物のような時間だった。


ホテルクオーレ長崎駅前のレディースシングルルームに滑り込み、ベッドに倒れ込んだ瞬間の、あのひんやりとしたシーツの感触。一日中歩き回って疲弊した身体が、深い水溜まりに沈み込んでいくみたいに、ゆっくりと脱力していく。部屋に満ちる清潔なリネンの香りと、遠くで聞こえる街の喧騒が、心地よいコントラストを描いていた。意識が途切れる直前、静寂が部屋の隅々まで浸透していく快感に包まれた。


深夜、洗面所のタイルの冷たさが、素足の裏から鋭く伝わってくる。窓ガラスに結露した水滴が、ゆっくりと筋を作って流れ落ちていくのを、ぼーっと眺めていた。ホテルクオーレ長崎駅前の静かな空間から、ふと視線を上げれば、窓の外には稲佐山の夜景が宝石を散りばめたように煌めいている。自分の呼吸の音だけが、とても鮮明なリズムを持って、夜の静寂に溶け込んでいた。


不意に降り出した雨が、熱を持ったアスファルトに小さな同心円を描き始めていた。雨特有の土っぽい匂いが立ち上がり、傘を差すタイミングを逃した私たちは、三人で肩を寄せ合いながら全力で走った。服の裾がしっとりと濡れ、肌に張り付く不快感さえ、後から振り返れば、この旅の輪郭をくっきりと描き出した心地よいノイズだった気がする。


帰りの列車を待つホームで、誰が何を言ったかさえ曖昧になったけれど、ただ心地よい疲労感だけが、温かい毛布のように身体を包んでいた。旅の記憶が、湖の底に積もる白い砂のように、ゆっくりと静かに積み重なっていく。完璧なプランなんてなくてよかった。欠けていた空白の部分に、予想もしなかった最高の思い出が、ちょうどいい温度で流れ込んできたから。

遠くで路面電車の鐘が、小さく、けれど確かに、夜の街に鳴り響いていた。

  • 駅近だから、チェックイン前に近くのコンビニで変な地方限定のお菓子を買い込んで、部屋で品評会してほしい。
  • 稲佐山の夜景に行くなら、あえて時間をずらして、街の灯りがじわっと滲み出す時間帯を狙ってみて。