← 戻る ホテルウイング・ポート長崎

裸足で歩いたカーペットの、少しだけ硬い感触

裸足で歩いたカーペットの、少しだけ硬い感触

長崎の街と部屋で拾い集めた五つの音

路面電車の高く鋭い「チンチン」という鐘の音が、秋の澄んだ空気に溶けていく。地図を広げてルートを主張する上の子と、窓に張り付いて外を眺める下の子。家族という小さな舟が、街という大きな奔流に身を任せ、心地よい水流に運ばれていくような高揚感に包まれていた。

「ねえ、あのお月様、あんなに丸いよ」という、下の子の透き通った小さな声。道端に揺れるススキの穂が、九月の少し冷たくなった風に吹かれて、さらさらと銀色の波のように鳴っている。大人は目的地へと急ぐけれど、子供の視線はいつも足元の小さな石や空の端っこにある違和感に止まり、世界を鮮やかな色彩で塗り替えてくれる。

ホテルウイング・ポート長崎の、カードキーがカチリと鳴る乾いた音。外の喧騒がふっと途切れ、部屋の中の静寂が、温かい毛布のように身体を包み込む。私は旅のリーダーを気取っていたけれど、結局は全員分の荷物を抱えただけの運搬係だったのだと、ツインベッドのひんやりとしたシーツに指先を触れさせながら、ふっと独りごちた。

カステラをゆっくりと手で割る時の、しっとりとした密やかな音。指先にまとわりつく蜂蜜の濃厚な甘い香りと、少しだけ粘り気のある柔らかな感触。上の子が口の周りを黄色くして笑い、下の子がそれを真似て口を大きく開ける。特別な贅沢ではなくても、一つの菓子を分かち合うという単純な動作が、家族の絆を静かに、けれど強固に補強していく。

深夜、窓ガラスを叩く規則的な雨の音。街の明かりが雨粒に滲んで、部屋の中に淡い水色の光の波が届いている。一日中歩き回った身体が、深い水底に沈んでいくように、ゆっくりと深い休息へと向かう。明日もまた賑やかな鐘の音が鳴るけれど、今はただ、この静かなリズムと家族の穏やかな寝息に、心ゆくまで浸っていたい。

窓の外で揺れるススキと、誰かが小さく欠伸をした音だけが、夜の静寂に溶けていく。

  • 長崎駅前電停から歩道橋を渡る時、子供の目線で街を眺めてみて。大人が見落とす小さな発見が、旅を彩るはず。
  • カステラはあえて手で割ってシェアしてほしい。指先に残る蜂蜜の甘さが、旅の記憶をより鮮明に刻んでくれる。