ロビーの自販機が低く唸っている。外の空気は刺すように冷たく、コートの袖口から忍び込む風が指先を痺れさせていた。誰が一番最後に準備を終えるかという、くだらない賭けに興じていたけれど、結局は全員が遅刻。チェックインの時間は、予想以上に後ろへとズレ込んでいった。
湯気がゆらゆらと立ち上がる朝食のプレート。深く焙煎されたコーヒーの苦い香りが、眠い鼻腔を心地よくくすぐる。誰かがこぼした真っ赤なジャムがテーブルに小さく広がっていて、それを指で拭き取ろうとしてさらに塗り広げるという、あまりに稚拙なやり取りに、テーブル全体に笑いが弾けた。
「ねえ、地図、逆じゃない?」誰かの鋭い指摘に、一瞬で全員が黙り込む。i+Land nagasakiの果てしなく続く長い廊下に、気まずい沈黙と、誰かの喉の奥から漏れた笑い声が反響していた。そもそも誰がリーダーだったのか、もはや誰も覚えていない。
アクティビティに挑戦し、見事に全員が完敗したとき。互いの情けない形相を見て、お腹が痛くなるまで笑い転げた。信じられないけれど、その時の惨めさこそが、この旅で一番心地よい記憶として、心の底に澱のように溜まっている気がする。
午前五時の海は、底の見えない深い群青色をしていた。カーテンの隙間から差し込む淡い光が、部屋の中の冷ややかな空気を塗りつぶしていく。重い布団に深く潜り込み、外の静寂を耳でなぞる時間は、贅沢というよりは、ただ心地よい空白だった。
裸足で踏み出したタイルの氷のような冷たさに、思わず飛び上がった。けれど、その直後、天然温泉の湯気に包まれる瞬間、強張っていた肩の力がふっと溶けていく。GRAXの客室にある、パリッとしたリネンの感触が、心地よく肌に張り付いていた。
外を歩いているとき、誰かが「あ、靴下左右違う」と気づいて、また爆笑の渦が起きた。一月の風はまだ鋭く肌を刺すが、潮の香りと、絶え間ない笑い声が混ざり合い、凍てついていた空気が少しだけ柔らかくなった気がした。
指先の痺れが消え、じわっと熱が戻ってくる感覚。それは、一人で耐える孤独な寒さではなく、誰かと分かち合った後の、体温の余韻だった。答えなんてなくていい。ただ、このぬくもりが心地よければ、それで十分だった。
最後に見た海は、誰の記憶にも残らないほど静かだった。
- 誰とでも喧嘩しそうな気分の日こそ、あえてアクティビティに挑戦してみて。
- 朝の海を眺めながら、あえて誰とも喋らずにコーヒーを飲んでみて。