私たちの「迷走」を静かに見守っていた5つのもの
ロビーのポルトガルタイル:鮮やかな青と白の幾何学模様が視覚を刺激し、素足で触れれば鋭い冷たさが突き抜ける硬い感触。私たちが「今日の夕食代を誰が持つか」という、大人の矜持を完全に捨て去ったくだらない賭けに興じていた時間をすべて記憶している。誰が一番最後に大浦天主堂の門に辿り着くかという、小学生のような競争の号砲が鳴った、始まりの場所。
遮光カーテンのずっしりとした厚み:外の冷たい夜気を完全に遮断し、部屋を深い闇に包み込む重厚な生地の質感。午前2時、消灯したはずの部屋で、誰かが「あ、言い忘れてた」と切り出したせいで始まった、止まらない思い出話。ひそひそ話が次第に抑えきれない笑い声に変わり、カーテンのわずかな隙間から漏れる街灯の淡い光だけが、私たちの秘密の集会を照らしていた。
ツインルームのベッドの間の隙間:120cmのベッドが二つ並んだ、ちょうど大人が一人入り込めそうな空白地帯。そこにはコンビニで買い込んだ大量のお菓子が散乱し、半分に割ったカステラの濃厚で甘い香りが充満していた。誰がどの袋に先に手を伸ばすかという、静かだが熾烈な陣取り合戦が繰り広げられた、戦場のような聖域。
洗面所の、清潔すぎる石鹸:指先で触れるとしっとりとした滑らかな質感と、鼻をくすぐる控えめな石鹸の香り。長崎新地中華街で食べ歩きをした後、指についた甘いタレや油を、もどかしそうに必死に洗い流していた私たちの焦り。鏡に映る、口の周りにソースをつけたまま笑い合っている情けない顔まで、この清潔な泡は優しく包み込んでくれていた。
エレベーターの鏡:冷たく無機質なガラスの反射と、頭上から降り注ぐ白い照明。チェックアウト直前、疲れ果てて目の下に深いクマを作ったお互いの顔を見て、「ねえ、私たち、全然オシャレな旅になってないよね」と爆笑した瞬間。完璧に整えられたホテルのお出迎えに対して、あまりに不釣り合いな私たちの疲労困憊した姿を、鏡はただ淡々と、残酷なまでに映し出していた。
静寂の空間が語る、私たちの「不協和音」
もしこの部屋が口をきけたなら、きっと私たちを「手入れされていない野生の蔦」みたいに表現するだろう。ANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒルという、美しく切り揃えられた南欧の庭園のような空間に、忽然現れた制御不能な緑の塊。最初は戸惑っていたはずだ。静寂を愛するこの空間にとって、私たちの笑い声や、ベッドの上で跳ねるような騒がしさは、ある種の侵略だったのかもしれない。「静かにしなきゃ」という旅先での緊張感と、「もうどうでもいい」という親密な解放感の間で激しく揺れる私たちの体温が、次第に部屋の冷たい空気を温めていく。整然とした空間に、私たちの不格好な体温と賑やかさが染み込み、もともとそこにあったはずの静けさが、心地よい喧騒に塗り替えられていく。それは、コンクリートの隙間から力強く芽を出す植物のように、予定調和を壊すことでしか得られない、本当の意味での「居心地の良さ」だったのだと思う。
冷たい冬の風に混じって、どこからか淡い梅の花の香りがした。
- グラバー園まで歩く3分間、あえて誰とも喋らずに、冬の空気の音だけを聴いてみて。
- 朝食のあと、あえて一番遠いルートで大浦天主堂まで散歩して、迷子になる時間を楽しんで。