← 戻る ベッセルホテルカンパーナ京都五条

指先に残った、甘い綿菓子の温度

「地図、逆じゃない?」という心地よい喧嘩

「ねえ、駅まで徒歩1分って書いてあったよね? なんで私たち、もう10分も歩いてるの?」
「それは君が地図を上下逆さまに持ってたからでしょ! 呆れたなあ」
「はぁ!? 誰がそんなこと言った! そもそもこのスーツケース、重すぎて方向感覚失うし、キャスターがガタガタ鳴ってて指示が聞こえなかっただけ!」
冷たい冬風が頬を叩き、吐き出す息が白く濁る。私たちは互いの不手際をなじり合いながら、賑やかに路地を彷徨う。そんな喧騒さえも、旅の心地よいスパイスだった。
「いいから、とりあえずあっち。ほら、あそこに見えるのがベッセルホテルカンパーナ京都五条じゃない?」
「あー、本当だ。もう、今回は絶対誰か一人が遅刻するか迷子になるって賭けてたけど、結果的に全員で迷子になるとか、私たちらしくて最高に誇らしいね」

輪郭が滲んでいく、静かな場所

ロビーに足を踏み入れた瞬間、肺の奥まで凍りついていた冷気が追い出され、代わりに焙煎されたコーヒーの香りと、どこか懐かしい甘い香りが鼻をくすぐった。私たちはまだ、個別の色を持った液体のように、それぞれがバラバラなテンションで空間に降り立つ。けれど、ラウンジで提供されている綿菓子を口にしたとき、その感覚が変わった。舌の上で形を失い、儚く消えていく白い塊。ふと鏡を見ると、頬に綿菓子の破片が張り付いたままで、それに気づかず10分も真剣に明日の計画を話していた。友人たちがそれを指差して爆笑し、私も一緒に笑ったとき、自分たちの境界線が少しずつ滲み始めたように感じた。まるで、白い和紙に落ちた濃い色の顔料が、ゆっくりと繊維に沿って広がっていくみたいに。

部屋に戻ると、足の裏に触れるタイルのひんやりとした温度が、心地よく意識を覚醒させる。今回選んだコンフォートツインの空間は、ちょうどいい。ベッドから照明のスイッチまで、腕を伸ばせば届きそうで届かない、絶妙な距離感。その空白が、一人でいるときには孤独に聞こえるけれど、友人が隣にいると思うと、それが心地よい「余白」に変わる。リネンに包まれたとき、洗いたての布の香りがふわりと上がり、張り詰めていた神経が完全に弛緩した。加湿空気清浄機が静かに吐き出す湿り気が、冬の乾燥した肌を優しく包み込んでいた。

大浴場へ向かい、微細な泡が肌を包み込むと、旅の疲れという名の固まった澱が、ゆっくりと溶け出していくのがわかった。サウナの熱気に身を任せ、その後で水風呂に飛び込む。皮膚がギュッと引き締まり、呼吸が深く、静かになる。私たちは、もはや個別の人間ではなく、このホテルの静寂という大きな布地に染み込んだ、ひとつの大きな染みのようになっていたのかもしれない。

水風呂のあとの、嘘のない言葉

「……なんか、今年は本当にいろいろあったね」
サウナ後の休憩スペース。湿り気を帯びた温い空気の中で、誰かがぽつりと呟いた。昼間の喧騒が嘘のように、声のトーンが低くなる。遠くで聞こえるかすかな街の喧騒が、かえってこの空間の密閉された親密さを際立たせていた。
「本当だね。正直、途中で投げ出したくなる夜もあったけど、こうして今、京都で一緒にぼーっとしてるのが、一番正解だった気がする」
ふかふかのバスローブに身を包み、私たちは心地よい疲労感に身を委ねる。言葉の端々から、隠していた弱さや本音が、湯気のようにゆっくりと漏れ出していた。
「私たち、案外うまくやってるよね。お互いに口は悪いけど」
「まあね。来年も、またこうして適当な計画を立てて、迷子になろうか」
「賛成。でも次は、ちゃんと地図を正しく持てる人をリーダーにしようね」

窓の外で、冬の淡い光がゆっくりと街を塗り替えていく。

  • ラウンジのソフトクリームは18時から20時まで。冷たい甘さが、歩き疲れた体に心地よく染み渡ります。
  • 大浴場にはキッズ用備品も充実しているので、大人の友人旅だけでなく、家族での滞在にも最適です。