← 戻る からすま京都ホテル

コンビニの袋が指先に冷たかった夜

誰が、この時間に空腹を望んだのか

三月の京都の夜風は、想像していたよりもずっと鋭かった。それは頬を優しく撫でるというよりは、目に見えない薄い刃物で皮膚をなぞられるような、刺すような冷たさだった。私たちは、桜の開花予想を完璧に追いかけ、最高のタイミングで最高に美しい場所へ辿り着くという、今考えればあまりに傲慢な賭けに打って出た。しかし結果として、私たちは墨色に染まった迷路のような路地裏で時間を溶かし、結局どこにも辿り着かぬまま、ただひどくお腹を空かせた状態で四条駅の喧騒へと逃げ帰ってきた。

からすま京都ホテルにチェックインした瞬間、ロビーに直結したスターバックスから漂う、深く焙煎されたコーヒーの香りに一瞬だけ意識を奪われた。けれど、今の私たちに本当に必要だったのは、洗練されたカフェインではなく、コンビニの棚から適当に詰め込んだジャンクな何かだった。指先に食い込むビニール袋の取っ手の冷たさと、中に入った菓子の不規則な重みが、今日の私たちの不器用な旅程を象徴しているようで、可笑しくもあり、少しだけ切なかった。部屋のドアを閉めた瞬間、外の車の走行音や行き交う人々の話し声が、まるでスイッチを切ったように遠のいた。この四角い空間だけが、街の騒音から切り離された小さな島のように感じられた。

咀嚼の合間にこぼれ落ちた、とりとめない本音

「ねえ、信じられないと思うけど、私たち今日、一回も目的地に辿り着いてないよね」

ベッドの上に広げられたコンビニの袋から、季節限定の苺もちと、なぜか一緒に買った塩味のポテトチップスを取り出しながら、友人が呆れたように笑った。私たちはツインルームのベッドの隙間に腰掛け、お互いの足が触れ合うくらいの距離で、不格好に夜食を囲んでいた。部屋の照明を少し落とすと、間接照明の柔らかな光が、私たちの影を壁に長く伸ばしていた。

「いいじゃん。むしろ、あの行き止まりの路地で見た、誰のものかもわからない小さな植木鉢の方が、ガイドブックに載っている完璧な桜よりずっと心に残ってるし」

「言い訳がすごいな。でも、まあ、この苺もちの濃厚な甘さとポテトチップスの尖った塩気の組み合わせは、計算して辿り着いた正解よりもずっと正しい気がする」

もちは心地よい弾力を持っていて、口の中でゆっくりと溶けていく。その甘さが、冷え切った身体の芯にじわりと染み込んでいく感覚に、強張っていた肩の力がふっと抜けた。私たちは、明日こそは計画通りに動こうという約束を、わざと無視することにした。誰が何を言おうと、今この瞬間に、少しだけしわが寄った白いシーツの上で、不格好な夜食を分け合っていることが、この旅で一番「私たちらしい」時間なのだと、なんとなく分かっていたから。もしかしたら、目的地に辿り着かないことこそが、この街が私たちに用意してくれた本当のプランだったのかもしれない。そんな根拠のない確信のようなものが、会話の合間にふわりと漂っていた。

胃袋が満たされた後に訪れる、深い静寂

食べ終えた後の袋を片付け、部屋の明かりをさらに一つ消した。サイドテーブルに置かれた小さなランプだけが、部屋の隅に琥珀色の柔らかい影を落としている。空調が発する低く一定なハムのような音が、静寂の輪郭をなぞっていた。外ではまだ京都の夜が深く呼吸を続けているはずなのに、ここにあるのは、ただ心地よい温度と、お互いの緩やかな呼吸音だけだ。

裸足で踏んだカーペットのふかふかとした感触が、意外なほど柔らかくて、そのまま意識が深い場所へ溶けてしまいそうになる。私たちはもう、言葉を必要としなかった。何かを解決したり、計画を修正したりすることに疲れた夜には、こういう「何もない時間」こそが一番の贅沢になる。欠けている部分があるからこそ、そこに誰かが入り込む余白が生まれる。私たちは、自分たちが完璧に計画を失敗させたことを、静かに祝福しながら、深い眠りの縁に身を任せた。明日、目が覚めた時に窓から見える景色が、どんな色をしているのか。それを考えることさえ、今は贅沢な気がして、ゆっくりと瞼を閉じた。

カーテンの隙間から、街の灯りが細い銀色の線となって部屋に忍び込んでいた。

  • 四条駅近くのコンビニで、季節限定の和菓子と、あえて対極にあるスナック菓子を買い込むこと
  • 深夜2時、部屋の明かりを最小限にして、計画の失敗について笑い合うこと